
Interview
2024/04/01
暑苦しいほど愛ある経営を。
Interview
2021/05/01
GUEST
石坂産業株式会社 代表取締役
石坂 典子
大バッシングから今では誰からも誇りに思われる企業に
石坂 典子(いしざか のりこ) 1972年東京都生まれ。米国に短期留学後、父が創設者である石坂産業に入社。2002年に取締役社長に就任し、会社の改革を断行。2013年には、代表取締役に就任。里山再生への取り組みが評価され、同社は2012年に日本生態系協会のJHEP(ハビタット評価認証制度)で最高ランクの「AAA」を取得。13年、経済産業省の「おもてなし経営企業選」に選ばれ、その他「掃除大賞」「文部科学大臣賞」「日本経営品質賞」なども受賞。
INTERVIEWER
株式会社EPファーマライン 代表取締役社長
池田 佳奈美
池田 佳奈美(いけだ かなみ) 2020年10月、株式会社EPファーマライン代表取締役社長に就任。EPファーマラインは、東証1部上場のEPSグループの一員として、医薬品・医療・医療機器・ヘルスケア業界に特化し、「DIサービス」「BPOサービス」「マルチチャネルプロモーションサービス」「ヘルスケア・医療機器サポートサービス」の4つの基軸事業を展開。
池田
先ほど、里山とプラント内を見学させていただきましたが、本当に美しい施設ですね。産業廃棄物を扱っている会社というイメージとは随分違っていて、感動しました。
石坂
脱・産廃屋イメージを目指してきたので、そうご評価いただいて嬉しいです。池田さんは、社長に就任されたそうで、おめでとうございます。
池田
ありがとうございます。社長になりたてなので、いろいろと勉強をさせてください。石坂さんが社長に就任された時は、ダイオキシン問題で産業廃棄物処理業者に逆風が吹いてる真っ只中だったそうですね。
石坂
1999年のことです。ダイオキシンに関する誤報がもとで、住民の反対運動に火がついて、もの凄いバッシングを受けていました。
池田
でも石坂さんの所では、業界で注目されるほどの、最新鋭のダイオキシン対策炉を導入されていたのですよね。
石坂
当時この辺りは産廃業者がたくさんいて、煙突が立ち並び産廃銀座などと呼ばれていました。住民にとってはどの煙突からダイオキシンが出ているかなど関係なく、すべてが「悪」に見えたのだと思います。
池田
そんなマイナスの状況から社長を継ごうと思ったのは何故ですか?
石坂
先代社長である父は寡黙な職人肌で、会社への想いなどを口にしたことがありませんでした。私はふと疑問に思い、父に何故会社を始めたのかと聞いてみたのです。
池田
お父様は何とおっしゃったんですか?
石坂
父は昔、解体の仕事をしていて、ゴミの山だった『夢の島』を見て、おかしいと感じたと。使える物がいっぱいあるのに捨てられている。ゴミをゴミにしない世の中にしないといけない、その想いで会社を立ち上げたと教えてくれました。
でも父の想いは、社員はもちろん住民も誰も知らなかったのです。私は初めて聞いた父の想いに共感し、それを世の中に伝えたいと思いました。それで私に社長をやらせてくれと頼みました。
池田
勇気ある決断ですね。お父様は何と?
石坂
猛反対されました(笑)。男社会だからお前にはムリだって。それでも私は一生懸命に説得しました。男社会だからなおさら、女性目線が必要なのですと。
私は現場でダンプや重機を動かすことはできないけれど、創業理念を伝えることはできる。毎日300台のダンプが廃棄物を持ってくる。世間で尊敬されている優良企業が排出したものもあります。それを、自分たちが後処理をしている。でも、自分たちは世間で嫌われてしまう。それは理不尽ですよね。社員が誇りを持って働ける会社にしたいと父を説得しました。それで何とか、1年間だけのお試し社長になることを許してもらえたのです。肩書は、代表権のない取締役社長です。
池田
社長に就任されて、最初に取り組まれたのは何ですか?
石坂
まず、世間からの見られ方を変えたいと思いました。産廃業者イメージからの脱却です。食品会社のような清潔感のある見た目を目指して、現場が外から見えない、全天候型の屋内プラントにしようと。焼却による廃棄物の「縮減」事業から、全天候型プラントによる「再資源化」事業への業態転換を決断したのです。
池田
それで焼却炉もやめたのですね。
石坂
ダイオキシン問題が騒がれるより前に、父はダイオキシン対策炉を導入済でした。15億円を投じた先駆的な取り組みで、父の自慢でもあったので廃炉の決断は悩みました。ですが、住民は煙に反応をしますからね。父を説得するのも一苦労でした。経営って選択の連続ですが、「やめる」選択が一番難しいと思いましたね。
池田
なるほど・・・。
石坂
全天候型のプラントは、行政から建設許可をもらうのも苦労しました。行政は住民の味方ですから、なかなか許可を出してもらえない。何度も足を運びようやく許可をもらえました。
池田
それを「お試し社長」の1年間で達成したわけですね。
石坂
焼却炉をなくすので、新しいプラントが完成するまでは、廃棄物の委託先も新たに探さなくてはいけないし、本当に怒涛の1年間でした。でも、その甲斐があって父にも認めてもらい、「お試し」が外れました(笑)。
池田
会社に変革を起こす存在になられたわけですが、社員の反応はいかがでした?
石坂
社員こそ一番の財産だと思い、社員教育には力を注ぎましたが、なかなか理解はしてもらえなかったです。
当時は不良高校生の集まりのような状態でした。荒くれの男ばかり。そんな中、業界初のISO3統合マネジメントシステムを取得しようと思いました。認証を得るためには特別な社員教育が必要になります。で、コンサルタントにお願いして勉強会を開こうとしたのですが・・・
池田
反対されましたか?
石坂
ISOの勉強会を開催すると伝えただけで、ヘルメットを叩きつけて辞めていった社員もいました。実際の勉強会では、みんな寝てしまうし(笑)。そこで一計を案じて、若い女性のコンサルタントの先生を探しました。活字は嫌い、新聞も読まない、勉強は嫌い、でもマンガは見る。そんな社員でしたから、マンガ風のテキストにしてもらって。そうやって何とか認証を得ることができました。
池田
私も会社をつくっているのは「人」だと思っていますので、人材育成を最も大事に考えています。どのように社員の意識変革を行ったのですか?
石坂
当時は毎日現場に行って、ガミガミやっていました。ヘルメットの顎ヒモをチェックしたり、ガムを出せ、シャツをズボンに入れろとか。私が行くと、フナムシのように社員たちはササッと逃げていく(笑)。
スキを見ては休憩所でサボりたがるから、6つあった休憩所を1つに減らしました。悪い慣習や体質はすべて排除。徹底的なスリム化ですね。
さらに、売上や勤怠管理など、あらゆる情報を見える化しました。例えば、各コンベアに番号を振り、止まるたびに記録を付けるようにしました。その結果、累計で換算すると1年間に1週間以上プラントを止めていたのと同等になることがわかりました。
池田
社員の方々の意識に変化はありましたか?
石坂
続けているうちに、色々なことが「会社の問題」ではなく「自分たち社員の問題」だと自覚するようになってきたのです。コンベアも止まらなくなりました。
池田
住民の方にも社員にも嫌われるスタートだったのに、今では住民の方に愛され、社員が誇りに思う企業に育て上げられました。苦境にもめげず、ご自分の道を貫かれていて凄いと思います。
石坂
私は立候補して社長になったけれど、池田さんは任命されたわけですよね。それこそ凄いですよ。多くの社員の中から選ばれたわけですから。
池田
石坂さんの、見える化する、スリム化する、本気度を伝えるという点は、私も心がけているところです。社員に会社の状態や課題を公開した上で、一緒に会社をつくっていきたいと思っています。
石坂
これから訪れる高齢化社会で、池田さんの会社のような健康産業は不可欠になるでしょう。
池田
薬は、人間に本来備わっている治癒力をほんの少し後押しするものです。健康産業の一翼を担う会社として、人々が心身ともに元気で過ごせる時間を少しでも長くしたいと考えています。
石坂
環境事業の目で見ると、ゴミで地球の健康状態がわかるのです。ゴミが埋められると土壌が汚染され、川の水を汚します。そうすると飲料水が汚染され、健康被害を引き起こします。今問題になっている海洋汚染も、ゴミが原因。究極のことを言ってしまうと、健康を求めるのであれば、環境保護が大事だと思います。
池田
石坂さんが今、最も深刻に考えている問題は、やはり環境保護ですか。
石坂
廃棄物をリサイクルしたものを使ってくれる社会になっていないことが、最もリアルな問題ですね。
池田
つまり、リサイクル品が活用されていない。
石坂
ええ。社会が、枯渇性の資源に頼っている状況です。例えば、アスファルトや空港の滑走路などの下層に敷きつめる砂は、ほとんどが輸入です。盛土に使われる砂もそう。世界各国で、自然の砂を採掘している。山や川、海岸を掘って砂を集めているから、地球規模で自然災害に弱くなります。
池田
砂を輸入しているのですか。
石坂
このまま自然の砂を採掘し続けていると、雪崩、洪水、台風の土砂災害なども大きくなるでしょう。当社でも廃棄物を砂にリサイクルしていますが、産地のはっきりしない砂は敬遠されがちです。品質が悪いと思われるのか、採掘した新品の砂を使いたがります。
池田
使う人の意識を変えないとダメなのですね。
石坂
木材も同じです。木材をリサイクルしてつくった紙は、少し茶色っぽくなるので需要が低い。真っ白な紙が求められるんです。
池田
だからリサイクル率が進まないわけですね。
石坂
受け入れた廃棄物のリサイクル率は、業界では約50%と言われていますが、当社は98%です。でもリサイクルしたものを買ってくれない。それでも続けていくしかないのです。
池田
最近は、SDGsやESG投資など、石坂さんの取り組みに、だんだん時代が追い付いてきたようにも思えます。当社は健康産業の一翼を担う会社と先ほど言いましたが、石坂産業さんも、大きくは健康産業と言えますね。本日は、本当にありがとうございました。
石坂社長と対談させていただき、先代の想いをしっかりと受け継いでいらっしゃることに感激いたしました。会社の理念など「変えてはいけない」部分を頑なに守りつつ、「変える」部分は毅然と実行する。その生き様は、私も見習わなくてはと思います。経済合理性ではなく、地球環境まで視野に入れた考え方は、大変勉強になりました。
ご訪問した帰りのタクシーの中で、運転手さんから「石坂社長に会われたのですか?」と声をかけられ、「自分は先代から知っている。今の女性社長も、あそこの人たちも、みんな感じがいいでしょう」と誇らしげにお話しされていました。そのご様子に、石坂社長をはじめ石坂産業様が地域の人たちに受け入れられていること、愛されていることを感じ、目頭が熱くなりました。
(池田 佳奈美)