
Interview
2024/04/01
暑苦しいほど愛ある経営を。
Interview
2023/10/01
GUEST
トライアスリート
稲田 弘
研究して工夫して得られた成果の喜びが健康でいられる秘訣
稲田弘(いなだ ひろむ)1932年(昭和7年)大阪府生まれ。早稲田大学卒業後、NHKに勤務し社会部記者として活躍。60歳で定年退職し水泳を始め、69歳からロードバイクも始める。70歳でトライアスロンに初挑戦し、79歳目前の2011年にアイアンマン世界選手権に初出場。以来、同大会に9年連続で出場。2016年と2018年に出場したアイアンマン世界選手権の年代別優勝記録は、ギネス世界記録に認定された。90歳になった現在も、最高齢完走記録の更新を目指し、現役選手として活躍している。
INTERVIEWER
イーピーエス株式会社代表取締役 社長代表執行役員
佐々 明
佐々明(ささ あきら)1969年茨城県生まれ。1992年、大塚製薬株式会社入社。その後、1998年にイーピーエス株式会社入社。2020年10月に同社 代表取締役 社長代表執行役員に就任。さらに、2022年からEPSホールディングス株式会社 常務執行役員 CROセグメント長、同社インキュベーションセンター センター長、株式会社EPNextS 取締役、株式会社EP綜合 執行役員アドバイザーも兼任。
※役職は2023年9月現在のものです。
佐々
はじめまして。私もトライアスロンをやっているので、この競技のレジェンドである稲田さんにお会いできることを楽しみにしていました。稲田さんの大会デビューは70歳の時だったそうですね。
稲田
そもそものきっかけは60歳の時、妻の介護のために退職し、健康維持の目的で家の前にできたスポーツクラブで水泳を始めたことです。
佐々
泳ぎは得意だったのですか?
稲田
いえいえ。まったくの未経験。最初は3メートルも泳げませんでした(笑)。
佐々
泳げなかったとは、意外です。
稲田
コーチに教わりながら徐々に泳げるようになり、面白くなって大会にも出るようになりました。3年くらい経った時、水泳仲間とスイム&ランという大会に出場してみたんです。スイムが1.5キロ、ランが10キロで、なんとか完走できました。
佐々
ランにも挑戦ですか、すごいですね。
稲田
それから毎年出場するようになりました。出るたびに最高齢賞などをいただいて、それが嬉しくてね。で、いつも会場には、ヘルメットをかぶってバイク(自転車)で来る人たちがいて、「かっこいい」と憧れるようになりました。そして69歳の時に思い切ってロードバイクを買ったんです。乗ってみると、風を切って走るのがとても気持ちよかった。
佐々
次々と新しいことに挑戦される。
稲田
それでたまたま幕張でトライアスロンの大会があることを知り、俄然興味が湧いたわけです。「俺もスイム、バイク、ランの3種目できるから出てみよう」と。それが70歳の時でした。
佐々
そこからさらに最も過酷なアイアンマンレースに挑戦していくわけですね。
稲田
もっと長い距離の競技に挑戦してみようと、どんどんエスカレートしていって、最長距離で競うアイアンマンレースに行き着きました。
佐々
78歳でハワイ・コナのアイアンマン世界選手権への出場ですね。尊敬します。
稲田
佐々さんはいつ始めたのですか?
佐々
私が始めたのは、おそらく稲田さんと同じ時期。30年前、23~24歳の時でした。就職して運動をしなくなったので、何かスポーツがやりたくなり、思い浮かんだのがトライアスロンでした。小学校で水泳を習っていて、中学では駅伝をやっていたので。モテそうなイメージもありましたし(笑)。
稲田
不純な動機ですね(笑)。
佐々
モテませんでしたが(笑)。何度か大会に出たものの、転職して練習時間がとれなくなり、しばらく競技から遠ざかりました。再開したのは、4~5年前です。若い社員のダンスを見学に行ったところすごく輝いていました。自分も何かに一生懸命取り組みたいと思い、トライアスロンを再開しました。
稲田
若い人の元気に触発されたのですね。
佐々
はい。稲田さんは水泳から数えるともう30年続いていますね。それだけ続けられる魅力はどんなところでしょうか?
稲田
それはもう、嬉しいから。楽しいから。特に練習が楽しい。本番はキツいですが(笑)。いろいろ考えながら練習をして、試してみて、成果が出るのが嬉しいですね。特にバイクの時など、骨盤をこう動かしたらどうだろうと考えてみたり。他のスポーツ選手のトレーニング風景も参考になります。
佐々
時々テレビでアスリートの練習風景が流されたりしますね。そういうのをご覧になりますか?
稲田
はい。特に参考になったのがスピードスケートですね。自転車を使って練習をしているのを見まして、こうペダルを滑らせる感じでね。自分なりに真似してみたら、坂道がとても楽になったんです。
佐々
研究熱心なんですね。
稲田
必要に迫られてなんですけどね。年をとると体の衰えがはっきりわかる。弱った筋肉を動きや他の筋肉でどうカバーするかを考える。自然と研究を始めるんですよ。そして楽になったり速くなったりすると喜びでいっぱいになる。
佐々
なるほど。そうした工夫で伸びていくことが楽しいんですね。
稲田
そう。楽しいし、嬉しい。バイクに乗りながら、人がいない所で叫ぶんですよ。「気持ちいい!」「嬉しい!」「俺はまだ生きてるぞ!」って。とにかくものすごく気持ちがいい。
佐々
いやぁ、すごいな。私はまだその境地には辿り着けていません。ただ、大会の時は完走すると本当に嬉しいです。練習も確かにおっしゃる通り、ちょっと変えてみると楽になったりする時もあるんですよ。
稲田
そうでしょ。
佐々
私はスイムが苦手で。風景が変わらないのが苦痛でした。それでコーチのアドバイスで、バタ足の回数とか、顔上げのタイミングとかを少し変えてみたら、だんだん速度も上がって楽しくなってきた。今ではスイムが一番得意になりました。
稲田
嬉しいでしょう。考えて、工夫することが喜びにつながるんだと思います。
佐々
稲田さんのトレーニングについて教えていただけますか?
稲田
毎日やっていますよ。
佐々
休みなしですか、さすがです。
稲田
私の年齢だと毎日やらないと筋肉が落ちてしまう。だから量としてはそんなたくさんトレーニングをするわけではないです。
佐々
どんなメニューを?
稲田
おおむね、スイムは一日おきに3キロくらい。その後、バイクを70キロくらい。バイクだけの日もあり、その場合は100キロから120キロで他はやらない。ランは、その合間に15キロくらいですね。
佐々
十分な練習量だと思います。
稲田
コロナ前はバイクの後に5キロくらいランニングをすることもありましたが、丸一日かかり疲れが残ってしまうので、今の練習量にしました。佐々さんは、どんなトレーニングですか?
佐々
私も毎日と言いたいところですが、土日だけトレーニングをしています。
稲田
働いている方はそうですよね。
佐々
基本的なメニューは、ランを10キロ、バイクが40キロ、スイムが1.5キロ。その順番で土日の2日とも行います。
稲田
大会にも出られるんですか?
佐々
ええ。実は、イーピーエス株式会社は、9月に開催される「霞ヶ浦トライアスロンフェスタ(※)」にタイトルスポンサーとして協賛していまして、私はその大会に出場する予定なのです。
稲田
ほう、距離はどのくらいですか?
佐々
今回から、スイムが2キロ、バイクが71キロ、ランが20キロの「ミドルの部」が設けられまして、私はそこに挑戦します。
稲田
おお、すごいですね。オリンピックより長い。
佐々
そうなんです。いつもより長距離なので、今は土日のうち1日を、ミドルの距離でトレーニングしています。
稲田
本番に備えた練習ですね。
佐々
完走目標なのですが、制限時間内に完走できるかどうか。ちょっと不安です。
稲田
大丈夫ですよ、お若いんですから。頑張ってください。
佐々
ありがとうございます。
佐々
稲田さんは30年前に水泳からスタートして本格的にスポーツに携わるようになったわけですが、始める前と今とでは健康という視点から見てどう変わりましたか?
稲田
それはもう、まったくの別人になりました。始めた頃はメタボぎみだったんですよ。
佐々
それは想像できないですね。
稲田
体はめちゃめちゃ変わりました。病気にもならないです。悪い所ないんですよ、全然。
佐々
食事にも気を遣っているんですか?
稲田
食事はかなり意識しています。食べ物で体はできているので、間違った食べ方をしたら必ず影響が出てきます。特に朝食にはこだわっています。
佐々
どんなものを召し上がりますか?
稲田
栄養士さんに教わりながら自分で工夫したのですが、14種類の野菜と鶏の胸肉、豚肉、貝類などを入れたスープを2鍋分作っています。ビタミン、ミネラル、タンパク質などのバランスを考えて。
佐々
ご自身で作っているんですね。
稲田
はい自分で。作りながらりんごとバナナをいただく。炭水化物は全粒粉の食パン1枚。はちみつとブルーベリージャムをつけて。それと豆乳を飲む。
佐々
かなりの量では?
稲田
そうなんです。レースより朝食が辛い(笑)。ここ10年くらいずっと同じメニューです。
佐々
それが運動できる体を維持するポイントのひとつなんですね。
稲田
健康と言えば、気持ちの面でも変わりました。思考がポジティブになりましたね。
佐々
それはよくわかります。私もあまりヘコまない。前向きなことしか考えないんです。運動をしているとメンタルも元気でいられることは確かですね。人生100年時代と言われますが、健康に長生きする秘訣は何だと考えますか?
稲田
さっき、嬉しくて叫んでしまうという話をしましたが、嬉しいという気持ちは幸せホルモンがいっぱい出ているわけですからね、ボケ防止にもつながると思います。体中の細胞が喜んでいる感じですね。それで免疫力も高まり病気にもなりにくくなるんでしょう。喜ぶことが健康で長生きの秘訣ではないでしょうか。
佐々
稲田さんの生きる楽しさが伝わって、お話をしているだけで元気がもらえます。
稲田
私は人生で今が一番楽しい時だと感じます。これまでこんなに夢中になって何かに取り組み、毎日のように喜びを感じる経験はなかったんじゃないかな。本当に今が一番楽しい。青春ですよ。
佐々
私もそう言える90歳になりたいです。今日はとても良い刺激をいただきました。応援しています。ありがとうございました。
稲田
こちらこそ。お話しできて嬉しかったです。
アイアンマンレースは、トライアスロンの中でも最も過酷と言われる競技です。トライアスロンは、水泳(スイム)・自転車(バイク)・長距離走(ラン)の3種目を1人の選手が続けて行います。競技距離によって以下のようなカテゴリーがあり、その中でも最長の競技距離がアイアンマンレースです。
1978年に最初の大会が行われ、現在では世界各地で開かれるアイアンマン・トライアスロン大会に参加して資格を得た人のみ出場できる「アイアンマン世界選手権」を頂点としています。トータル距離226.2kmを制限時間(17時間)内でゴールすることで完走となり、正式に記録が残ります。稲田さんはアイアンマンレースにおける世界最高齢の現役選手です。