
Interview
2023/10/01
90歳の今が、人生で最も楽しい。
Interview
2024/04/01
GUEST
株式会社ベアーズ取締役副社長
髙橋 ゆき
誰もが心身ともに健康な状態で生きるウェルビーイングな社会を目指して
髙橋 ゆき(たかはし ゆき)1995~1999年、香港で現地法人に勤めながら“妊娠、出産、育児×働く”を一人のフィリピン人メイドにサポートしてもらった自身の原体験から、日本国に“家事代行サービス産業”を確立したいという強い想いで、1999年に株式会社ベアーズを夫婦創業。“暮らし”から人々のウェルビーイング向上と日本国の健やかな発展に貢献したく“日本の暮らしの新しいインフラ想像”に邁進中。社員のウェルビーイングを第一に考え、社内3つの実業団の「総監督」も務める。人生のウェルビーイングコーチとして、社内外からさまざまな相談を受ける。
INTERVIEWER
EPプロキャリア株式会社代表取締役
鷲尾 志乃ぶ
鷲尾 志乃ぶ(わしお しのぶ)1993年に看護師として碧南市民病院に入職。2001年に退職後ツアーナースなどを経験し、2002年に株式会社イーピーリンク(現・株式会社EPLink)に入社。同社 専務執行役員 事業企画推進本部長などを経て、2019年にEPSホールディングス株式会社 基盤事業推進本部副本部長に就任。同社基盤事業統括本部 商品企画推進センター長などを歴任し、2023年10月、EPプロキャリア株式会社 代表取締役に就任、現在に至る。
鷲尾
お会いできるのを楽しみにしていました。ゆきさんとお呼びしてもいいでしょうか。
髙橋
はい、ありがとうございます。光栄です。私もしのぶさんと呼ばせてください。
鷲尾
はい、よろしくお願いします。まず、ゆきさんが家事代行サービスの会社、ベアーズを創業された経緯を教えていただけますか。
髙橋
きっかけは香港です。1995年に縁あって夫と一緒に香港に渡って現地の商社で働き始めたのです。ところがなんと、すぐに子どもを授かりまして。もっとキャリアを積みたかったのでしばらく内緒にしていましたが、7ヶ月に入りもう隠し通せないと思い社長に打ち明けました。仕事と子育てを両立させたいと相談したら、とても喜んでくれて、メイドさんに頼ればいいと勧めてくれたのです。
鷲尾
香港ではメイドさんが一般的なんですか。
髙橋
そうなのです。当時、日本では上流家庭だけのイメージでしたが、香港ではメイドさんを雇うことは一般的でした。思い起こしてみれば、現地のオフィスでは働いている妊婦さんをよく見かけ、出産後はすぐ復帰していました。彼女たちの暮らしを支えていたのがメイドさんの存在だったのです。
鷲尾
今から約30年前の香港ではすでに女性が安心して活躍できる環境が整っていたのですね。
髙橋
ええ。それで私たちも香港の習慣、文化に従ってメイドさんを雇うことにしました。そこで出会ったのが、スーザンというフィリピン人の女性でした。料理、掃除、洗濯…なんでもこなし、本当に頼りになりました。おかげで香港での生活はとても楽しかった。
鷲尾
良かったですね。
髙橋
約4年間過ごした香港から帰国し、夫は留学でアメリカへ。私は第二子を身ごもり出産しました。その生活が大変で。私は疲れ果てて、笑顔も消えてしまいました。帰国した夫がそんな私を心配して。香港ではいつも笑顔だったのにって。
鷲尾
スーザンの存在が大きかったんですね。
髙橋
大きかったですね。肉体的な疲れだけでなく、頼るところや心の保険がない。一人で頑張ろうと思うとよけい疲れる。夫にそう話したら、しばらく考えて「同じ辛さを感じている人はたくさんいるはず。そうだ産業を創ろう!」と言い出したのです。
鷲尾
産業ですか。
髙橋
家事代行のサービス産業です。当時日本の職場では、女性が妊娠を告げると上司に困った顔をされたり、キャリアはもう終わったように思われたり…そんな時代でした。だから香港のように家事代行が当たり前になるよう「産業」として確立させ、堂々と誰かに頼れる社会を創ろうということを大きなミッションに掲げ、ベアーズを創業したのです。
鷲尾
ニーズはあると感じたわけですか。
髙橋
100%の自信がありました。日本でもスーザンのようなメイドさんがいれば、若い夫婦が自分らしさを保ちながら夢やキャリアを諦めないで、子どもを産み育てていける。女性の将来の選択肢が増えるわけですから、絶対にニーズがあると信じていました。
鷲尾
私は、実は産後ウツがひどかったのです。私の場合は夫に支えられ職場復帰し、なんとか乗り越えましたが、一人で頑張って辛い思いをしている女性はきっとたくさんいるでしょう。ベアーズさんの家事代行サービスの存在は、そんな女性たちの心のよりどころになり、救われる人が多いと思います。
髙橋
しのぶさんは、看護師さんをされていたと聞きましたが、どうして看護師さんに?
鷲尾
私は大家族で育ちまして。当時は明治生まれの曾祖母、大正生まれの祖父母、両親、兄弟3人の8人で暮らしていました。
髙橋
素敵な大家族ですね。
鷲尾
中学2年の時、自由研究で老人ホームを訪れて介護体験をしたのです。高齢の家族と暮らすのが当たり前だった私にとって、老人ホームでの介護体験は大きなインパクトがありました。高齢化社会、介護、看護について考えさせられるきっかけとなり、人の役に立てる仕事に興味を持つようになりました。そこで学校の先生に進路を相談したところ、看護師を勧めてくれ、目指すようになったのです。
髙橋
ご実家はどちらですか?
鷲尾
愛知県で工務店を商う家庭で育ったので、私も根っこは商売人なのです。家は多くの場合25年で建て替えるそうで、その後も耐えられるだけの強い基礎工事が大事だと親からよく聞かされたものです。私も何をやるにしても基礎はしっかり固めるよう心掛けてきました。そのおかげで今があると言ってもいいでしょうね。
髙橋
25年ですか。土台がしっかりしているからこそ、良い家に建て替えられる。経営にも通じる考え方ですね。ベアーズも今年25周年なので再構築の時なのかも(笑)。 それで今の会社にはどのような経緯で入られたのですか?
鷲尾
愛知の市民病院で10年くらい働き、外科、脳外科、口腔外科、小児科、産婦人科と一通り経験したので、もう一度看護の原点に返って自分を見つめ直したいと思い退職しました。その後、紹介されたのが、EPSグループでのCRC(治験コーディネーター)の仕事だったのです。すぐに辞めようと思っていたのですが、もう23年経っています(笑)。
髙橋
EPSさんは良い人材を獲得されましたね。しのぶさんにとって、CRCの仕事で惹かれるところがあったのでしょうね、きっと。
鷲尾
インフォームドコンセントという概念にとても魅了されたんです。治験の対象者が、治療の内容や処方されるお薬などについて十分な説明を受けて内容を理解し、納得された上で参加するということです。人権をしっかり守り、一緒に寄り添いますという姿勢がとても素敵だと思ったのです。
髙橋
なるほど、素晴らしいですね。
鷲尾
ありがとうございます。経営の大先輩であるゆきさんにぜひお聞きしたいのですが、25年間ベアーズを経営されてきてどんな風に壁を乗り越えて来られたのですか?
髙橋
壁はそれこそ常にあって、でも壁とは思わずに乗り越えてきました。困ったことが起こったらむしろありがたいと受け取るんです。トラブルとは気づきを与えてくれることだと考えています。
鷲尾
私も見習いたいです。
髙橋
よく髙橋ゆきはポジティブで明るく強いと思われがちですが、むしろ逆なのです。私、30歳の時にパニック障害を発症し、実はまだ治っていません。人間は弱い生き物だと知っているんです。未来はどうなるかわからないから不安だし、過去にも戻れない。だから後悔してもしょうがない。たくさんの愛を持って今を生きることが大切なのだと思います。
鷲尾
愛ですか。
髙橋
常に、暑苦しいほどの愛ある経営ということを自分の中心に据えています。
鷲尾
今周りで社員の方たちが頷いていらっしゃる。ゆきさんの哲学が浸透しているんですね。
髙橋
しのぶさんの経営に対する考え方は?
鷲尾
働く環境も含めて会社を進化させることです。さまざまなネットワークをつなげ、社員のライフイベントに合わせて働き方の選択肢を増やし、生き生きと長く働き続けられる環境を整備したいと思っています。
髙橋
すごく分かります。その通りですね。しのぶさんはこれまでCRCを統括するようなポジションにおられ、今は同EPSグループ内の派遣会社のトップとしてご活躍をされていますね。仕事内容が変わっても共通する信念みたいなものはありますか?
鷲尾
それはやはり、インフォームドコンセントです。経営においても社員に対してのインフォームドコンセントを大事にしています。伝えたい方針など、ちゃんと納得してもらうことが重要です。そのためにも社員の声に耳を傾けるよう心掛けています。
髙橋
社員に対するインフォームドコンセントですか。とても勉強になりました。私がここ何年か力を入れているのは、心身ともに健康な状態で生きるウェルビーイングです。社会もお客様も社員もそうあってほしいと願っています。これからはどんな会社もCWO(チーフウェルビーイングオフィサー)が必要だと思います。ベアーズのCWOは私の役割であると認識し、社員がいつも心身ともに健康でいるために、さまざまな取り組みに挑戦しているところです。
鷲尾
スポーツチームなども作られていますね。それもウェルビーイングの考え方からですか。
髙橋
そのひとつです。スポーツを続けたいからキャリアをあきらめる…そんな選択をしてほしくない。誰もが何かをあきらめることなく自分の思い描く末来を実現できる社会作りのひとつとして、そしてウェルビーイング経営の一環として、実業団チームを作ることにしたのです。それで、チアダンスチーム、吹奏楽団、女子陸上競技部を順番に立ち上げていきました。
鷲尾
どのチームも次々と実績を作られているそうで、すごいですね。ゆきさんご自身が健康のために実践していることは?
髙橋
最近始めたのですが、毎朝40分のストレッチを続けています。気持ち良いし、家で手軽に続けられる。あと白湯を適度に飲むことと、発酵食品を積極的に摂ることも実践しています。
鷲尾
しっかりとケアされていて偉いですね。
髙橋
口角を上げて笑うことも心掛けています。そうしていると脳が勝手に勘違いをして、幸せだと感じるホルモンが分泌されて身体に良い影響を与えると聞きまして。
鷲尾
その通りだと思います。
髙橋
病は気からですよね。しのぶさんは、何かやっていますか?
鷲尾
健康を意識しつつ、楽しくてハマっていることがお弁当作りです。子どもは今、中学生で給食が出るので、自分のためだけに作っています。
髙橋
素敵。私は息子と娘の部活のために早朝起きてお弁当を作っていたけど、自分のためって楽しそうですね。
鷲尾
ええ。今日はとても良い刺激がもらえました。ゆきさんといるとそれだけで健康になれそうです。最近、祖父の妹が100歳で亡くなったと連絡がありましたが、亡くなる前日まで自営の洋品店で接客をし、自分で制作したチラシを自転車で配布していたんですって。自分も同じように健康で長生きしたいと思います。本日は、ありがとうございました。
髙橋
こちらこそ。またぜひお会いしましょう。