
Interview
2024/04/01
暑苦しいほど愛ある経営を。
Interview
2021/11/01
GUEST
東京理科大学 薬学部長
宮崎 智
未来の医療を支える大学と企業
宮崎 智(みやざき さとる)東京理科大学 薬学部 学部長。専門分野はバイオインフォマティクス、分子生物学。データ解析や仮想実験から創薬の糧となり得る情報を抽出し、人体への影響も考慮した創薬から、その新薬をいかに承認を取るかという部分まで実践的な学問として取り組んでいる。
INTERVIEWER
株式会社EPメディエイト 代表取締役社長
丹治 公典
丹治 公典(たんじ まさのり)1974年福島県生まれ。薬学修士。東京理科大学大学院卒業後、2000年にイーピーエス株式会社入社。15年間モニタリング業務を担当、その後、営業・広報・事業推進など同時に複数の業務を兼任。現在、株式会社EPメディエイト代表取締役社長。
INTERVIEWER
イーピーエス株式会社 臨床開発事業本部
鈴木 結衣
鈴木 結衣(すずき ゆい)千葉県生まれ。東京理科大学大学院卒業(薬学研究科 薬科学専攻)。2020年4月、イーピーエス株式会社入社。現在は臨床開発事業本部データサイエンスセンター データマネジメント部に所属し、治験に要するデータの整理・確認業務に努めている。
丹治
宮崎先生は、もともとは理工学部出身だとお聞きしていますが、当時はどのような研究をされていたのですか?
宮崎
私が専門としていた領域は、情報科学や統計学を使う、いわゆるデータサイエンスです。これまで世界中の研究者とともに、人の体を構成する遺伝子情報の解析をはじめ、生命科学の発展を目的とした多くのプロジェクトに携わってきました。
丹治
ご自身のこれまでのキャリアの中で印象的だったことはありますか?
宮崎
自分たちが日本を代表して提出した遺伝子情報の解析データをもとに、医療や創薬に応用する研究をアメリカが中心となって進められていったことですね。すべてにおいて先を越されたかのような感覚は、今もずっと記憶に残っています。
丹治
客観的なデータを揃えるだけでなく、それを応用する力が必要とも言えますよね。
宮崎
その通りです。そういった意味で、日本は今でもデータを応用する力が足りないと感じています。コロナワクチンに関してもそれは明らかです。ゲノム疫学という新しい研究分野があるにもかかわらず、日本はまだ従来の疫学から抜け出し切れていない。私としては、薬学においてそのような応用力を育む教育に尽力したいと思っています。
鈴木
薬学の分野は、大学も企業も世界に追いつける可能性があると感じますか。
宮崎
充分にあります。薬学の深い知識を持ちながら、コンピュータを駆使して専門的なデータも扱える。そんな人材を育てていきたいですね。
丹治
現在、東京理科大学(以下、理科大)ではどのようなスタンスで教育をされているのですか。
宮崎
この30年で、放射線、生化学、分子生物学、有機化学など多くの分野において技術革新がありました。しかし、昔の技術に関する知識の多くが、今でも役に立つものです。ですから、学科やカリキュラムは大きく変わっていません。ただひとつ、私が専門にしているデータサイエンスに関しては、専門ではなく一般教養にしようとする動きが生まれています。
鈴木
研究職や一般職にかかわらず、何を目指すにしても、データサイエンスの知識や技術は必要になってくるということですね。
宮崎
そうですね。薬剤師さんもレセプトコンピュータ(※1)を使って患者さんをフォローしていきますし、創薬に欠かせない臨床試験もコンピュータを使うことが一般的になっていきますから。
丹治
大学の研究室の風景も変わってきましたか?
宮崎
一般的にイメージされる、試験管とビーカーで実験するような「ウェット」と呼ばれる研究は脈々と続く一方で、それらを理解した上でコンピュータを活用する「ドライ」と呼ばれる研究がずいぶん増えてきたと思います。
鈴木
学生時代に私が専攻していた遺伝子に関する研究でも、膨大な解析が必要なのでコンピュータを使っていました。
丹治
なんだか面接みたいになってしまいますが、鈴木さんが大学で学んだことは、イーピーエスに入社してからも活きていますか。
鈴木
実験を通して培った論理的に進める力は活きていると思います。あとは諦めの悪さ(笑)。ハードな研究をやり切ったという経験は、社会に出てから大きく役に立っていると思います。
宮崎
諦めの悪さや地道に続けられるメンタリティは、理科大出身者の特長かもしれないですね。実際に多くの研究テーマが、まだ世の中に答えが出ていないものばかり。学生個人の力で乗り越えなければならないのは非常にハードだと思います。これもひとえに「優れた研究者を輩出したい」というスタンスの現れです。これは私が大切に考えている教育指針でもあります。
鈴木
薬学を取り巻く変化について、お二人はどのように考えていらっしゃいますか。
丹治
この30年で薬学は、ひとことで言うと「ケミカル」から「バイオ」へと大きくシフトしていると感じますね。従来からの化合物である薬から、抗がん剤をはじめとする抗体医薬品、遺伝情報を利用する核酸医薬品と呼ばれるものまで、医薬品そのものが広がりを見せています。また、GCP(※2)が取りまとめたルールにおいても、エビデンスに基づく医薬品開発が推進されていますから。
宮崎
おっしゃる通りです。そして今後もその変化はさらに加速するはずです。iPS細胞の研究でもわかる通り、薬による治療だけでなく再生医療という観点でも研究開発が進んでいます。おそらくこの先20年くらいで、人工臓器の提供する時代が来るのではないでしょうか。
丹治
先生が専門とする領域だと、AI創薬と呼ばれる世界も視野に入っていると思います。データサイエンスの技術が薬学の未来にとってますます必要となってきそうですね。
鈴木
先生自身、何か注目しているトピックがあれば教えてください。
宮崎
最近も話題になりましたが、2020年にアメリカで多動症の子どもの治療薬として、ゲームがアメリカで承認されましたね。これは、物質としての薬から、情報が薬になりうるという一つの大転換だと感じています。
鈴木
根拠を持って「お薬です」と認められたところがすごいですよね。
丹治
処方箋を持って薬局に行くと薬剤師さんからゲームアプリのダウンロードサイトを患者さんにお伝えする。そんな未来が待っているわけですね。
宮崎
そうですね。薬の概念が物質から情報へと広がることで、医療も当然変わっていきます。いつの時代も新しい薬は、患者さんだけでなくドクターも支えますからね。その担い手として、鈴木さんをはじめとする理科大薬学部出身の若い人たちが活躍することに期待したいです。
丹治
先程「優れた研究者を輩出する」というスタンスを大切にしていきたいとおっしゃいましたが、弊社はサービス業であるにもかかわらず、理科大出身者を多く採用しています。一定の専門知識があるのはもちろんですが、いろんな立場で物事を考える意識があるので、弊社のようなお客様同士をつないでビジネスをする業態にもマッチした人材が多いと思っています。
宮崎
理科大の場合、最初は薬剤師を目指して薬学部に進んだ学生たちも、半数の人が企業や行政に就職しています。その点は、他大学とは違った特色かもしれないですね。私が学生だった時代も含めて、薬剤師免許を取得してもそれに固執せず進路を決めるのは、理科大の伝統とも言えるでしょうね。
鈴木
私の同期にも薬学の専門職だけでなく、いろいろな分野に進んだ人が多いです。ただ入学当初はかなり漠然としかイメージしていなかったと思います。例えば研究室を決める3年生のタイミングで社会人の方との接点があれば、自分の進路をより具体的にイメージした上で、研究室を選択できるかもしれませんね。
宮崎
社会人との接点を大学内でも積極的につくる必要はありますよね。企業との連携や、社会人学生を増やすことで現役の学生たちの刺激を創出していきたいと考えています。
丹治
企業との連携に関して言えば、弊社としてもベンチャーとの接点は増やしていこうとしています。薬や健康食品といったライフサイエンス関連のアカデミア発ベンチャーが目立って増えていますし、学生さんが絡むことも少なくないと思います。弊社では提携企業の紹介や薬機法でクリアすべき要件、市場調査などアカデミアが不得手なところを支援することで良いものを世に送り出すお手伝いができたらと思っています。
宮崎
とてもありがたいお話です。研究者にはただの技術自慢で終わるのではなく、研究成果を社会に実装することで花開いてほしいと思っているので、これからもぜひご協力いただきたいです。現在薬学部では、野田キャンパスだけでなく、神楽坂にも5年程前から新たな拠点を構えています。こちらはおもに社会人博士の育成をメインにしたものです。現役の医師が学びに来ているほか、臨床データを分析する研究室も常設しているので「学び」に対する熱気を感じられると思います。
丹治
それは興味深いですね。ぜひ足を運んでみようと思います。
鈴木
医師として活躍しながら、さらに他の領域を学ぼうとする人たちが近くにいることは、とても良い刺激になりそうですね。
宮崎
あくまでも私見ですが「自分はこれだ」という軸足を1つだけでなく、バイリンガル、マルチリンガルのように複数持つべきではないか。そういった気づきから学び直しをする社会人が増えている気がします。アメリカの大学生の平均年齢は30代前半。社会に出てからも学ぶことに積極的です。日本の大学もそのような在り方が必要だと考えています。
丹治
先生との様々なお話を通して、医療の未来を支えるために、大学と企業が今何をすべきかを考える上で、たくさんのヒントをいただくことができました。本日はありがとうございました。